JUN OKAMOTO/ジュンオカモト

JUN OKAMOTO
2017
SPRING & SUMMER
[チャイコフスキーからの手紙。]

「JUN OKAMOTO(ジュンオカモト)」の2017年春夏コレクション。今シーズンのテーマは “チャイコフスキーからの手紙。” 
今回も一つのストーリーをデザイナー岡本順が考え、そのストーリーの、情景や、登場人物の彼と彼女の服をイメージしたデザインを展開しています。そして、一着、一着のお洋服には、ワード(名前)がついています。JUN OKAMOTO のあたらしい世界を、お楽しみください。

Collection story
「チャイコフスキーからの手紙。」

-第一幕-

「この湖に氷が張ったら、白鳥たちはどこに行くのかな?」

公園のベンチに座ったまま白鳥を眺めていた彼女は、
僕からコーヒーを受け取りながらそうつぶやいた。

サリンジャーの小説の中に出てきたタクシーの運転手はなんと答えたのだろうかと考えながら
(ちなみにタクシー運転手はその時怒鳴り散らしながら家鴨ではなく凍った湖の中に残った
魚の心配をしていたはずだ)、
彼女の横に座り一緒にコーヒーを飲みながら、
静かに浮かぶ白鳥をぼんやりと眺めた。

まだ開園までには時間があったけれど、
僕らは他にすることもなかったので、
コンサートホールへ向かった。

-第二幕-

目が覚めると彼女がいなくなっていた。
もっと正確に表現をすると、
いなくなったと言うよりは消えてしまったという感じだった。

クローゼットに綺麗に並べられていた彼女の洋服はもちろん、
靴や化粧品、お気に入りのDVDやワイングラスまで、
彼女の存在に関するありとあらゆるものが
魔法をかけられたみたいにきれいさっぱり消えてなくなっていた。

不思議なことに彼女が着ていたシフォンのワンピースと、
チャリティーバザーで買ったコサージュと、
くるみ割り人形のパンフレットだけは、昨日と同じ格好のまま残っていた。

-第三幕-

真っ暗な森は明日と共に少しずつ明るくなっていった。

13人目の魔法使いによって
魔法をかけられたかのよう眠りつづけていた彼女だったが、
100年も眠ることなく不意に目を覚ました。

窓の外を見ると、奇妙な真っ白い森が続いていた。
彼女は何かに導かれるようにその森の中へと歩き始めた。
森の中の白い木々は葉の代わりに白い羽を生やしていた。
彼女は道に迷わないように、目印代わりに木に生えている羽を抜きながら歩いた。
抜かれた羽の跡から、新しく色のついた羽が生えてきた。

そのうちにあの日の公園とよく似た湖が現れた。
湖にはあの公園と同じように白鳥たちが連なり、
彼女を気にすることもなくクールな表情で泳いでいた。
彼女は湖のほとりに座り、またぼんやりと白鳥を眺めた。
すると白鳥の中に見たこともない真っ黒な黒鳥が1羽、
こっちを見ていることに気づいた。


黒鳥と目が合った瞬間
あの日彼が手渡してくれた
コーヒーの香りがしたような気がした。
そして私はそのまま眠りに落ちた。

木々に生えていた真っ白な名円は次第に黒色に変わり、
眠れる森は真っ黒な闇で覆われていった。

-第四幕-

目が覚めると森の中にいた。

白い羽で覆われている森は、ところどころに色のついた羽が生えていた。
色のついた羽根をめぐって歩き進めると、その先に青白く光る湖が現れた。

それはあの日の公園とよく似た湖だった。
ただ明らかに違うのは、
白鳥という存在がこの世から消えてしまったかと思うような
静寂に包まれている中、黒鳥が1羽だけ泳いでいた。
黒鳥は僕に気がついた様子だったが、
振り返ることもせずに向きを変えて進んで行った。
僕は何かが気にかかり、その黒鳥を追った。
すると黒鳥は急に消え、その先には彼女が横たわっていた。
僕は急いで彼女に近づき抱きかかえた。
けれどそれは彼女ではなく、長い首が力なく垂れた冷たくなった白鳥だった。

黒鳥は静かな顔で僕の方を見ていた。

僕は白鳥を抱きかかえて、何かを叫びながら湖の中に飛び込んだ。

-第五幕-

そこで僕は目を覚ました。
隣にはいつもと同じように小さな寝息を立てる彼女と、
その横で体の割りに大きなイビキをかいているトノが寝いていた。

僕は二人を起こさないようにそっとベッドから抜け出し、
小さな音でチャイコフスキー交響曲第5番をかけ、
夜明け前の星空を眺めながらコーヒーの準備を始めた。

JUN OKAMOTO
2017
SPRING & SUMMER
[チャイコフスキーからの手紙。]

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